16th ALBUM
残心残暑
- 発売日2024/08/28
aikoにとって約1年5カ月ぶりとなるニューアルバムが完成した。タイトルは、「残心残暑」。
「タイトルはけっこう早い段階、アルバムのジャケット撮影のときにふわっと浮かびました。いたずらで棒か何かを振り回してたんですけど(笑)、相手に気づかれないように気持ちを保ちながら棒を構えている私の姿を見て『“残心”だね』って言われて。私は残心という言葉を知らなかったから意味を聞いたら、武士道の世界では戦いに勝っても負けても常に自分の心を保ち続けておくことを残心と呼ぶそうで。そこで私は勝手な解釈で、相手への好きだという気持ちを気づかれないようにすることも残心じゃないかなと思ったんです。恋愛にも当てはまる素敵な言葉やなって。その瞬間、リリースするタイミングが合わさって『残心残暑』というタイトルが出てきたんですよね」
どんな状況であったとしても、常に心には凛とした強さを保ち続けておきたい。その残心の姿勢は恋愛に対してはもちろん、自身の音楽に対しての向き合い方にも直結しているのだろう。「いつ逢えたら」「星の降る日に」「相思相愛」という既発曲を含む、全13曲を収録した本作。それは、ひとつの季節が過ぎ去っていくときに心をよぎるような切なさに満ちた、そしてどんなシチュエーションであっても強い気持ちが根底に流れたラブソングが並ぶ最高の仕上がりとなった。
「今の自分が聴いて欲しいなと思う曲をしっかりまとめることができたのがまずすごく嬉しいです。マスタリングの際、この曲はボーカルに重きを置いた音作りをしよう、この曲は景色に重きを置くものにしようっていうふうに、エンジニアさんが1曲ごとの物語をすごく丁寧に考えてくださって。そういう現場を見ていたときに、音楽を26年間続けてきたことで自分の曲の聴いてもらい方が以前とはまたちょっと変わってきたような感覚があったんですよね。そういう意味では、こんなこと自分で言うとめっちゃ気持ち悪いけど(笑)……どこか趣きのあるアルバムを作れたかなと思えたし、ちゃんと年齢を重ねてこれたんだなって強く感じました。そう思えたのは今回のアルバムが初めてかもしれないです。」
アルバムは、「最後に作ったのに見事、1曲目を獲得しました。アレンジをしてくださった島田(昌典)さんいわく、“チルい”サウンドです」という「blue」で心地よく幕を開ける。2曲目には先行配信された「skirt」を収録。どこか不穏な印象のイントロから始まりつつも、曲が進む中でサウンドが展開し、最後には晴れやかなエンディングを迎えるという、感情の揺れ動きがサウンドと共に一つの物語を紡ぎ出している楽曲だ。
「『skirt』はね、“もう無理!”っていう感情を書いた曲ですね。好きだった人の前ではもう自分は女じゃない、好きと思われるように努力ももうしない。だから“そのスカートは2度と履きません”っていう。全部をゼロにしたいっていう気持ちだったんだと思います。ものすごくかっこよくて大好きな曲なんですけど、1回歌うとヘトヘトになってしまう高カロリーな曲でもあります」
4曲目、5曲目には、ともにボーカルの表現力の豊かさが光る「好きにさせて」「鮮やかな街」が並ぶ。
「歌詞としてはあまり良好な感じではないんですけど、サウンド的にはホーンを入れて、ハッピーな仕上がりにしていただいた『好きにさせて』。デモのときよりもテンポも速くなりました。ボーカルもとにかく楽しく歌いました。アルバムの中では最後にレコーディングしたんですけど、今までで一番テイクが少なかったかなと思います。『鮮やかな街』では、Aメロでボコーダーを使いました。ある種、無機質な質感を出したかったので、あまりエモーショナルに歌うのではなく、朴訥な雰囲気を意識しました。歌詞の内容としては、今住んでいる東京にはまだなんとなく慣れない気持ちがあって。ここで私は息をしているけど、どこか息をしていない気持ちがあるなという感情を書きました」
「ガラクタ」でのシリアスなボーカルも強く印象に残る。一度レコーディングを終えたものの、自らのボーカルに納得がいかず、あらためて歌い直したのだという。
「最初はもっと暗めに歌ってたんですよ。その歌声に、『何か悲しいことがあって8歳ぐらい老けましたか?』っていう感じのニュアンスを感じてしまったので(笑)、もう一度歌い直させてもらったんです。アルバムの中ではこの曲が一番古くて、5、6年前にはあったかな。ずっとCDにしたかったので、今回収録することができて本当に嬉しいです。ファルセットもあるし、ベルトもあるし、すごいローの声を出さないといけないところもあるし。歌うのはとても難しい曲ですけどね」
「確信的ではないんですけど、さりげない言葉が後からジワジワとボディブロウのように効いてくるっていう曲。すごくオシャレなアレンジが好きです」という「blow」。「ちょっと早口だったから、噛まないように気をつけながら歌いました。テンポにうまく乗って歌うとバシッとハマるので、そこを一生懸命キープしながらレコーディングすることを意識して」という「願い事日記」。アルバムは多彩な景色を描き出しながら後半に向けて進んでいく。11曲目には軽快なサウンドに流れるようなボーカルがのる「アンコール」が収録されている。
「アンコール大好き歌手がついに『アンコール』という曲を書きました。でも、この曲では自分の心にこびりついているイヤな恋のシーンが繰り返し勝手に脳内再生してしまうという意味でのアンコールなので、できればもう帰りたいヤツですよね(笑)。これも歌うのは難しかったけど、いろんなコーラスを入れられたのでレコーディングはすごく楽しかったです」
美しくロマンチックなサウンドスケープに繊細な息遣いを感じさせる歌声がのる「よるのうみ」、そしてシンプルながらも壮大なミディアムナンバー「赤い手で」でアルバムは感動的なエンディングを迎えることとなる。
「『よるのうみ』はギターのトレモロがめっちゃヤバイし、アウトロでフェードアウトしていくときのベースラインもかっこよくてすごく好きです。出だしは音がすごく薄いので、自分の声質をキープさせつつ、理想の歌を歌うのが本当に難しくて。とにかくシビアに、慎重に歌わないといけないんですが、でもそこをあまり意識しすぎず、楽しみながらレコーディングできたことが幸せだったなってすごく思いました。ラストの『赤い手で』は、大切な人と手を繋いだだけで世界が変わる瞬間を曲にしました。歌始まりの曲だったので、アレンジャーのトオミ(ヨウ)さんがその前に時計の音を入れてくださって。アルバムの最後にふさわしい、すごくステキな仕上がりになりました」
1曲目からページをめくるようにaikoが紡いだ物語に浸っていく。曲が進むにつれアルバムとしての流れに心が高揚していくが、それと同時に終わりが近づいてくる寂しさが生まれてもくる。「残心残暑」は「この時間が永遠に続けばいいのに」と思わせてくれるアルバムになった。その感覚はaikoのライブにも通じるものではないだろうか。
「アレンジャーの島田さんはライブでもご一緒しているし、トオミさんも川嶋(可能)さんもライブを何度も観てくださっていて、みなさん、ライブのことも心のどこかで意識しながらアレンジをしてくださったのかもしれないです。私自身、今回はライブのセトリのような感覚で曲順を決めたので、その雰囲気が伝わってくれたらすごく嬉しいなって思います」
アルバムリリースの2日後、8月30日には約6年ぶりとなる野外フリーライブ「Love Like Aloha vol.7」が神奈川県・サザンビーチちがさきで開催される。さらに10月3日からは来年3月まで続く、全32公演のライブハウスツアー「Love Like Rock vol.10」もスタート。aikoは“残心”を持ちながら、止まることなく走り続けて行く。
「またアロハが開催できることは本当に奇跡。想いが強すぎると天候とかに左右されそうで怖いけど(笑)、でも本当に嬉しいです。アロハと、その先のロックに向けて、このaikoが走ってますからね。腹筋とか背筋のマシンもやってますから。今回のロックは冬場の開催なので、風邪を引かないようにしながら、会場ごとの空気を思いきり楽しもうと思っています。忙しいって最高やね(笑)。頑張ります!」
取材・文=もりひでゆき
- [初回限定仕様盤A]
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収録曲
DVD/Blu-ray収録内容 aiko Live Tour「Love Like Pop vol.24」
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