昨年末に開催されたカウントダウン公演を含む全3本のツアー「Love Like Pop vol.24.9」の興奮冷めやらぬ中、間もなく新たなツアー「Love Like Pop vol.25」をスタートさせるaikoから、新年のグリーティングとも言える嬉しい贈り物が届けられた。通算47枚目となるニューシングル「Cry High Fly」。キャリアを重ねるごとに輝きを増すオリジナリティに満ちた魅力を存分に詰め込んだ、濃密な聴き心地を味わえる1枚に仕上がっている。
「今回は比較的最近、去年の9月くらいに曲として仕上げた3曲が1枚のCDになったので、自分自身としてもすごくフレッシュな感じがするんですよね。活動を続ければ続けるほど音楽の中でいろんなことに挑戦したくなる気持ちが強くなっているんですけど、それがちゃんと詰め込めた作品にもなったので、すごく嬉しいです」
タイトル曲となる「Cry High Fly」は、心を寄せる相手との間に芽生えた痛みから自暴自棄になってしまう感情を、ソウルフレイバーを感じさせるグルービィなサウンドに乗せて届けてくれている。
「 “酒と泪と男と女”じゃないけど、歌詞で書いたのはちょっと泥臭い人間味なんですよね。自分の中ではどこか演歌みたいな感じがあるというか。でも、それを恨み節みたいな曲にしてしまうと本当に痛い聴き心地になってしまうので、サウンドはとにかく華やかに、多幸感のある感じにしたかったんです。その想いはアレンジャーの島田(昌典)さんにもしっかり伝えて。華やかで、でも泥臭いっていう最高の仕上がりにしていただきました」
曲を聴きながら歌詞を追っていると、“夜空”や“遠い月”、“冬に変わる風”など主人公の気持ちの動きや時間の流れを想起させる情景が随所に盛り込まれていることに気づく。その叙情的な筆致によって、聴き手はそれぞれの記憶を呼び起こし、触れ合わせながら曲の世界にどっぷりと浸ることができるのだろう。
「私は流れていく季節の中で、夜に見た空とか急に降ってきた雨とか、そういう景色が強く印象に残っているんですよ。今回はそれが歌詞になったような気がします。“泡が夜空に重なって”の部分には夏なイメージがあるし、“涙の波に映るいつまでも遠い月”はちょっと寒くなってきてる感じがする。そういう時間の流れが1曲の中に込められているところはありますね」
平メロとサビでノリが変わる構成に合わせ、パートごとに心に刺さる歌声を響かせているaiko。若干、レイドバックしたサビでの歌唱や、息使いを感じさせる語尾、エンディングを飾るロングトーンなど、全編にわたって至極のボーカリゼーションが満載だ。
「キーがすごく高いから大変ではあるんですけど、『あー歌い切った!』って思えるのがすごく気持ちいい曲ですね。デモの段階で半音下げたパターンも歌ってみたんですけど、でもやっぱり全然違う曲に聴こえてしまうんですよね。人間はなんでもギリギリのところで表現するのが大事だと思うので、この曲ではそこに挑戦した感じです。最後のロングトーンなんかは、頭から歌ってると本気で『はぁ』って息が切れるんです。なので、それがそのままCDにもなった感じで。レコーディングでは息をめいっぱい吸って、踏ん張って頑張って歌いました。みんなで楽しい景色を見たいので、ライブでも早く歌えたらいいな」
2曲目に収録されるのは、離れてしまった相手への想いが男性目線で紡がれる「大切だった人」。
「離れてしまった相手が景色や匂いを通して、ふとした瞬間に自分のことを思い出してくれているかもしれないなっていう、自分本位に勘違いしている気持ちを歌詞にしました。私が書く“僕”目線の歌詞は、自分がそう思っていて欲しい気持ちを書く場合が多くて。だから、相手がそう思っていてくれたらいいなっていう自分の願いでもあるんだと思います。以前、『大切な人』という曲を作ったんですけど、今回は“君は僕の大切な人/だけどもう巡り合えない人”というフレーズが出てきたから、これは『大切だった人』だなと思って、このタイトルにしました。それぞれ男女で視点が違うし、2曲にリンクしているところはないんですけど、これをきっかけに昔と今の曲をみんなが行き来して聴いてくれたら嬉しいですね」
川嶋可能が手がけたゆったりとしたムードを持つアレンジの中で、溢れる想いが切なく揺蕩っていく。情感に満ちたボーカリゼーション、特にグッとトーンを落とした“だけどもう巡り合えない人”のラインにはグッと胸を掴まれるはずだ。
「相手への想いはまだ存在しているのに、“もう巡り合えない人”と思わなくてはいけない気持ちに耐えてる自分がいるわけなので、歌い方も自然とトーンが低くなるんですよね。マイクにグッと近づいて、心の中にある本当の声を歌に乗せました。この曲は元々、ギターがジャカジャカ鳴るイメージで作ったんですけど、川嶋さんがすごくロマンチックな雰囲気でアレンジしてくださったんです。それがすごく素敵で、ものすごく気に入ってます。ただ、元々の自分のイメージも入れたかったので、最後の調整でギターの音をちょっと上げてもらったりもしました」
3曲目には、ニューオーリンズ風のセカンドラインとロカビリーテイストが1曲の中で融合する楽しいサウンドが印象的な「消しゴム」を収録。アレンジは島田昌典が手がけている。
「家で作っているときに、イントロの“チャッチャッチャ、チャッチャ”っていうニューオーリンズのリズムが浮かんで。そこからサビの“消しゴムの角を使って良いのは あなただけ”というフレーズが、ロカビリーなイメージを呼んでくれたんだと思います。この曲はとにかく楽しく、いろいろわちゃわちゃと遊びたかったんですよね。家でデモを録る段階から、1人でめっちゃ楽しんでましたから(笑)。そんな想いを伝えた上で、島田さんがさらに楽しいアレンジにしてくださいました」
ツンと尖った消しゴムの角はできるだけ長く大切に温存しておきたい。学生時代に誰しもが一度は思ったことのある身近なエピソードをモチーフにし、恋愛の楽曲へと落とし込む手腕はまさにaikoの真骨頂だ。
「消しゴムの角は絶対最後まで死守したいのに、それを例えば隣の席の男の子に使われたものすごくショックじゃないですか。でも、好きな人だったら許せると思うんです。それって最初に誰かを好きになったときに抱いた気持ちの、ひとつの行動だと思う。それが大人になっても続いているという、そんな曲です。ダメなことさえも許せる、愛おしいと思えるって素敵なことですよね。この曲の中の2人はめっちゃいい関係なんだと思います。サウンドの持つ雰囲気も相まって、レコーディングは本当に楽しかったです。曲の中には“フー!”って叫ぶガヤっぽいところもあるので、ライブではぜひみんなに言ってもらいたいです」
取材・文=もりひでゆき